2025.11.19
- チーム
【スタッフインタビュー】STVVチーフスカウト・長島大が語る「選手獲得の舞台裏」
シント=トロイデンVV(以下、STVV)では選手だけでなく日本人スタッフも現地ベルギーで活躍しています。
その日本人スタッフの一人である、チーフスカウト・長島大の仕事内容について聞きました。
画面に映るデータベースから、スタジアムのスタンドでの試合観戦まで──
STVVのチーフスカウト・長島大は、数字(データ)と直感を組み合わせながら日々の業務に取り組んでいます。今回は彼の仕事の流れや選手を評価する4つの基準、そして近年のデータ活用がスカウティングにもたらした変化について話を聞きました。
取材場所は、シント=ヤンス通りにあるクラブのトレーニング施設。
クラブの“心臓部”とも言えるこの場所で、長島は日々未来のチームづくりに励んでいます。40歳の日本人スカウトがどのような道のりを経て現在のポジションにたどり着いたのか、その歩みを振り返ります。
■ コーチからオランダ移住、そしてスカウトへ
「18歳の頃から約6年間、日本のアマチュアクラブでパートタイムのコーチをしていました。24歳になったとき、サッカーをもっと深く理解したいと思い、オランダへ渡りました。トータルフットボールに強く魅了されていました。その哲学を学べば自分を成長させることができ、将来的にどこで働くことになってもサッカーに貢献できると思いました。
今は日本で学んだことと欧州での知見を組み合わせながらスカウト業にあたっています。スカウトとして成長するには、毎日が学びの連続です。同僚のレポートを読み、トレーニングを見て、戦術を研究しています。日々サッカーに触れ続けることで、スカウトとしての視点が磨かれていくと感じています」
■ 「9時5時」では収まらない仕事
「スカウトの仕事内容は、シーズン中の時期によって大きく変わります」と長島は語ります。
「例えば7月の業務は、今の11月とは全く異なります。現在は週の始めに、WyScout(ワイスカウト)というツールで週末の試合結果を分析するところからスタートします。SNSや新聞の試合レポートなど、情報は今とても手に入りやすく、そこで気になったリーグをチェックし、次の週末にどの試合を現地で観に行くかを決めます。そして月曜の夜には、観戦予定のクラブにチケットを申請します」
長島は、週の残りの時間をフルマッチやハイライト映像の視聴にほぼ費やしているといいます。
「もちろん、ただ闇雲に見ているわけではありません」と彼は笑います。「すべてリストに基づいて、体系的に進めています。」
■ 4段階のスカウティングプロセス
「調査 → 選別 → 精査 → 交渉」
サッカー界でよく耳にする“リスト”とは、実際にどう運用されているのでしょうか。長島は自身が採用する4段階のプロセスを次のように説明します。
「選手のスカウティングは、理論どおりに進むものではありません。CEOの立石さん、テクニカルダイレクターのアンドレさんと常に話し合いながら進めます。まず私が候補選手の試合を3試合ほど分析し、その後お二人にも同じ選手の試合をチェックしてもらいます。最終的には複数回ライブでの試合の視察を行い、ここまでで“調査”と“選別”がほぼ完了します。
試合での視察は“精査”の段階で、より細かな点が重要になります。そして最後の“交渉”は、選手側の関係者、特に代理人と話し始めた瞬間から始まります。選手がSTVVに来たいと思っているか──ここが最も重要なポイントです」
■ 移籍が数年かかることも、数週間で決まることも
スカウティングと移籍交渉は、数年がかりになることもあれば、数週間で決まることもあります。今季の指揮官であるワウター・ヴランケン監督も選手獲得に関わっています。
「監督の意見は重要です。どのような選手がシステムに合うのかを共有してもらい、それを基にリストを調整していきます」
■ 日本との強い結びつきと、その変化
DMMによる経営権取得、そして立石CEOの就任以降、STVVと日本の関係はこれまで以上に強化されました。谷口彰悟選手、小久保玲央ブライアン選手、後藤啓介選手が現在日本代表に選ばれているほか、鈴木彩艶選手、遠藤航選手、鎌田大地選手、中村敬斗選手、藤田譲瑠チマ選手といった現日本代表選手も、かつてシントトロイデンでプレーしていました。冨安健洋選手もその一人です。
しかし長島によれば、近年は日本の有望選手を獲得することが以前より難しくなっているといいます。
「数年前までは、日本市場でシントトロイデンがほぼ独占的な立場にありましたが、今では世界中のクラブが日本人選手に注目しています。それでも優秀な選手を毎年獲得できるのは、彼らのDNAがSTVVに非常に合っているからです。日本人選手は謙虚で勤勉、そして常に全力を尽くす傾向があります。STVVは家族のようなクラブで、サポーターが一体となって選手を支えてくれる。地元の選手も海外の選手も、その雰囲気を強く感じています」
■ 長島が選手を見るときの「4つのパラメータ」
選手分析において、長島は次の4点を重要視します。
- 攻撃アクション
- 守備アクション
- 攻撃から守備の切り替えのアクション
- 守備から攻撃の切り替えのアクション
「選手がボールを持っている時間は、試合全体の中でほんの数分。
それ以外の“ボールのない時間”の動きが非常に重要なんです」
■ リーグによって変わる“プレースタイル”
「日本、オランダ、ベルギーで働いてきましたが、リーグごとにサッカーのスタイルは大きく異なります。ベルギーは非常にフィジカルで、多国籍な選手が集まるリーグです。オランダはテクニックに優れた選手が多いのが特徴です。
また、オランダではEU圏外の選手が労働許可を得るには平均年俸の150%以上が必要ですが、ベルギーでは約9万ユーロからプロ契約が可能です。国際的な人材を獲得しやすい点で、私たちはこの恩恵をここ数年大きく受けています。」
■ 現代サッカーの中心にある「データスカウティング」
「10年前は、データを活用するクラブはほとんどありませんでした。しかし今では、どのクラブも当たり前のように使っています。もちろん、私たちも同じです」
データは候補選手を絞り込む初期段階で大きな役割を果たしますが、それだけに頼ることはありません。
「データはあくまで“基準”のひとつです。最終的には必ずスタジアムに足を運び、自分の目で確かめます。もし全クラブが同じデータだけに頼れば、評価する選手も似てしまいます。だからこそ、私たちは独自のデータシステムを開発しました。サッカーは常に進化していきます。分析方法もそれに合わせてアップデートする必要があるんです」